成功するゲーム会社と、失敗するゲーム会社。その分かれ道はどこにあるのでしょうか。
ゲーム業界で豊富な経験を持つキム・ノードストロームが、2年をかけて100人以上の創業者やCEOに取材し、大きな成功と手痛い失敗から得た教訓をまとめた本書が、2026年秋に刊行されます。
ゲームビジネスを成功へ導くために、何を知り、どのような選択をすべきなのか。刊行に先駆け、本書の一部を特別に公開します。
『UP DOWN UP』はじめに
とりわけ成功した会社に共通するものは何か? 最終的には失敗するということだ。
ある日曜の朝、ベッドに横になったまま、自分のキャリアを振り返っていた。ひとつの考えが頭から離れなかった。
その時点でゲーム業界に身を置いてから20年以上が経っていた。同世代の多くの人々と同じように、業界と共に成長してきたわたしの経歴は、さまざまな役職や肩書きが入り混じったものになっていた。小さなインディースタジオを創業したこともあれば、大手企業の重役を務めたこともある。ゲームのデザインにコーディング、新規事業の立ち上げに携わったこともある。モバイルにコンソール、ディスク媒体もあればネット配信の案件もあった。大成功したプロジェクトもあれば大失敗に終わったものもある。個々のゲームにしても、実にすばらしい出来に仕上がったものもあれば、笑ってしまうほど酷い駄作になったこともあった。
自分の専門といえるものがあるとすれば、それはゼネラリスト、何でも屋であることだろう。ゲーム業界で成功するために必要とされる物事について、長い時間をかけて感覚を磨いてきたし、将来有望なゲーム会社を見分ける能力も養ってきたと思う。
だがその朝、わたしの頭にあったのは「失敗」についてだった。
わたしが思い出していたのは、過去に勤めたふたつの会社、パラドックス・インタラクティブとキングだった。いずれも長期にわたる急成長と華々しい成功を経て、突然のように衰退の時期を迎えた。つい昨日まで何ひとつ問題がないように思えたものが、急にうまくいかなくなったのだ。
キングの場合は、手短にまとめると、2014年の株式公開まではほぼ完璧だった。モバイルゲームの世界では止まらない巨像のような存在だったのだ。当時のわたしは副社長を務めるほか、「ペット・レスキュー・サーガ(Pet Rescue Saga)」の運営統括、そしてマルメスタジオのゼネラルマネージャーだった。キングはすばらしい企業カルチャーを持ち、世界中から最高の人材を集め、カジュアルゲームの最先端に立っていた。かつてないほど大規模なマーケティング組織を築き、1億人以上のDAU(デイリーアクティブユーザー)を抱えていた。会社は成長を続け、莫大な利益を上げていた。だが、それから状況は一変してしまう。
パラドックス・インタラクティブも同じような軌跡をたどっていた。成長の勢いはキングほど異例ではなかったものの、似た点は多かった。2000年代初頭に独自のニッチ市場を開拓してからは、「ヨーロッパ・ユニバサリス(Europa Universalis)」「ハーツ・オブ・アイアン(Hearts of Iron)」「ヴィクトリア(Victoria)」「シティーズ・スカイラインズ(Cities: Skylines)」「ステラリス(Stellaris)」といったタイトルでPC向けストラテジーゲームにおける絶対的王者となり、着実な成長を遂げた。ところが、2019年末からはあらゆる数字が突如として悪化していったのである。

とりわけ興味深いと感じたのは、少なくとも一見したところでは、キングもパラドックスもさほど大きな変化を遂げたわけではないということだ。両社とも、それまですばらしい成果を出してきたやり方を続けていただけだった。だがある時を境に、それが突然通用しなくなってしまった。
キングの衰退期はパラドックスよりも長く、ゆっくりとしたものだったが、そこには確かに共通点があった。そして、両社とも負のトレンドを断ち切り、組織を立て直し、再び成長への道を見出すようになるまでには数年を要した。
わたしは両社で、UP(上昇期)とDOWN(下降期)の両方を経験した。何が起きたのかを目の当たりにし、内側から見れば避けられないようにも見えた転落を防ごうとするチームの一員として働いた。
その朝、わたしの頭にこびりついていた問いはこうだった。いったい何が起こったのだろうか? これら2社が、堅実かつ永続的と思えるような成長から、突然の衰退へと転じた根本的な原因は何だったのか?
それからの数年間、この疑問はわたしにとってちょっとした執念のようなものになった。そしてその執念は、パラドックスとキングに限らず、他の多くのゲーム会社にも見られるパターンにも向けられていた。自分なりの考えをメモにまとめ、業界中の友人や同僚に話を聞いては、理解を深めるための取り組みを始めた。
はたして、ゲーム会社に共通するトレンドというべきものがあるのだろうか。そしておそらく、それ以上に重要なのは、大きく成功しているゲーム会社がたどっているパターンが存在するのだろうか、ということだ。その答えがイエスであるのなら、ゲーム会社がその成功を維持できる原因は何なのか。そして、なぜ最終的には失敗してしまうのだろうか。
その執念の成果が本書である。これまでの人生をゲーム業界で過ごしてきたわたしが、他の人にも応用できる知見と洞察をまとめたものだ。さらにわたしは100人を超える創業者、CEO、経営幹部へのインタビューを行った。彼らの視点や経験が、自分の考えを補強するか、あるいは否定できるか知りたかったからだ。そして得たのは肯定的な反応だった。つまり、ゲーム業界には明確なパターンが存在し、多くの会社がパラドックスやキングでわたしが経験したのとよく似たUPとDOWNをたどっていたことが分かったのだ。彼らの話を聞けば聞くほど、そのパターンがはっきりと浮かび上がってきた。
ここでいくつか前提を示しておきたい。本書が対象とするのはあくまで欧米のゲーム業界、すなわちヨーロッパやアメリカであり、他の地域のゲーム会社についてはほとんど触れていない。またソニーやマイクロソフト、任天堂、アップル、グーグル、エピック、Valveといった最大手のゲーム会社の成功についても深く取り上げてはいない。これらの企業は、ハードウェアの設計や生産から、プレイヤーのエコシステム、商品の流通、OSに至るまでのすべてを手中のものとしている。単に自分のゲーム会社を成功させようとする立場からすると、とうてい競合相手にはならない存在だからだ。
また本書で話を聞いた人々のほとんどが男性であることも事実だ。これはゲーム業界がまだ若く、成功したゲーム会社の創業者や、経営を担うポジションが依然として男性に偏っていることの副作用だと考えている。ただし、状況は改善されつつある。2022年のヨーロッパゲーム開発者連盟(European Gave Developers Federation、EGDF)の調査によれば、ヨーロッパのゲーム業界で働く11万人のうち約24%が女性だった(2021年は22%)。この数字が増えていることからも、女性の創業者やCEO、経営幹部は確実に増えている。これは非常に前向きなことだ。ゲーム業界が成長するためには新たな客層を開拓する必要があり、そのための最良の方法は、多様な視点を業界に取り入れることだからだ。
本書の執筆にあたりわたしは複数のゲームファンドに連絡し、その投資先ポートフォリオにおける女性CEOや女性共同創業者の割合を教えてもらった。その結果、7つのファンドが対象としている約400社の創業者およそ1000人の割合として、女性CEOは11・89%、女性共同創業者は8・95%という値を得た。今後、本書の続編を書く機会があるなら、その男女比は大きく変わっていることだろう。
また本書はゲーム自体に関するものでもない。ゲームを作る「チーム」について、そしてチームが力を合わせて大きな成果を得るために必要な物事を説明したものだ。興味深い逸話や感動的なエピソードではなく、ゲーム会社を成功させ、その成功を続けるうえで本当に必要なことを、率直かつ平易な形で伝えることを目的としている。対象とするのは、これから自分のゲーム会社を立ち上げるつもりであったり、すでにリーダーとしてゲーム会社を率いていたり、あるいは単に業界の舞台裏で何が起きているのかを少し知ってみたい人である。
つまるところ本書は、20年前、10年前、いや5年前でもいいが、かつての自分が手に取れたならどんなによかっただろうと心の底から思えるものなのだ。わたしの経験から皆さんが何かを得て、ありがちな失敗を避ける一助になれば、著者として喜ばしい限りである。
すべてを支配する4つのフェーズ
本書で頻出する言葉に「成功」がある。まさにわたしが語ろうとしているテーマの核心なので、その意味を少し立ち止まって定義しておく。単にこの言葉自体ではなく、ゲーム会社にとって関連が深いと思われる3つの視点から考えてみたい。
第一は、創造性と商業主義のバランスをどう取っていくかという点だ。仮にあなたがゲーム会社を経営していて、プレイヤーに愛され、頻繁に遊ばれるゲームを作ったとしよう。プレイヤーが費やしたお金は、スタッフの給与や経費にもなるが、何より重要な用途は、次のゲーム開発の資金となることだ。収益、さらに言えば純益こそが、会社に「生き残るだけでなく、長期的に考え、行動する自由」をもたらす。すなわち、プレイヤーに愛されるゲームを作り、それによって利益を得る。これを実現させることが、ゲーム会社にとってもっとも重要な成功の指標だとわたしは考える。
第二は、成長である。オーディエンスが大きくなればなるほど、潜在的な収益、そして純益も拡大する。成長においてとりわけ難しいのは、プレイヤー数が増え、関与度が高まってもなお、ゲームやサービスの品質を維持し、より高めることだ。それはつまり、ゲームを大きくしながらも、プレイヤーと運営側の双方を満足させるということであり、それを持続できるなら、同じように重要な成功の指標になる。
第三は、長期にわたる成功である。何であれ成長にはピークがあり、どんな商品やサービスもいずれは時代遅れになるか、競合に打ち負かされる。ゲームを刷新し、それに伴って会社の経営も変えられる能力こそが、ゲーム業界で継続的に成功するための基本だ。収益とオーディエンスの規模、利益を生み出す力をどれほど伸ばせるか、そして競合相手をどこに求めるかが重要となる。
この3つの要素をマスターすることがゲーム会社にとっての成功のカギとなる。自分の会社は唯一無二の存在であり、既存の成功の指標や管理の手法は当てはまらないと思うかもしれない。だが、それは思い違いなのだ。
同じように、成功への道のり――成長と衰退、浮き沈みを経て最終的に目標へとたどり着くプロセス――も、わたしが調べたところでは、どのようなゲーム会社であれ実に似通っている。それは明確に定義できる一連のフェーズに単純化でき、それぞれのフェーズで異なる特性と、成功のために必要な条件があるのだ。
このテーマは、ゲーム業界の外では「企業ライフサイクルの研究」として知られており、企業経営の専門書で詳しく説明されていることも多い。ニューヨーク大学金融学部のアスワス・ダモダラン教授は、企業のライフサイクルを6つの明確なフェーズに分けている。すなわち「スタートアップ期」「成長前期」「急成長期」「成長後期」「安定成熟期」「衰退期」だ。

分かりやすくするため、本書では6つではなく4つのフェーズにまとめることにした。「スタートアップ期」「成長期」「成熟期」「衰退期」の4つである。
わたしはこれを「すべてを支配する4つのフェーズ」と定義している。なぜなら、ゲーム会社の創業者やリーダーであれば、自分の会社の歩みが、過去に無数の会社が辿ってきたのと同じように、この4つのフェーズを経てゆく可能性が極めて高いことを受け入れるのが賢明だからだ。本書では、この各フェーズの特徴、固有の目標や課題、そして次のフェーズに進む(あるいは、望むなら現在のフェーズにできるだけ長くとどまる)ために創業者やリーダーが集中すべきことを、分量を割いて解説していく。
「EVE Online」の開発元であるCCPの共同創業者兼CEO、ヒルマル・ベルガー・ピエトルソンは、自社の歩みもこれらのフェーズと完全に一致すると語っている。
「2022年末に社員約500人の前でプレゼンを行い、そこでわたしは会社の歩みをまとめてみせました。2004年から2009年までの成長期、2014年までの成熟期、そして2017年まで続いた衰退期を経て、ようやくのことで持ち直し、再び成長へと戻ったのです」
会社がフェーズを経過するプロセスは一本道ではない。どんな会社でもスタートアップから始まり、成功すれば成長期へと進む。その後は、成長・成熟・衰退のフェーズを行ったり来たりするわけだが、それぞれのフェーズにどれほど長くとどまるかはリーダーシップの巧拙に大きく左右される。会社が常に目指すのは成長期への回帰なのだ。
CEOに課せられた役割を、これらのフェーズというレンズを通じて手短にまとめると以下のようになる。
スタートアップ期 会社を成長段階に乗せること。方法としては、幅広い層のプレイヤーを獲得し収益を生 むようなゲームをリリースすることがある。
成長期 できるだけ長く成長を維持し、可能な限り高いピークを迎え、その後に来る成熟期への準備を整えること。
成熟期 再び成長期に戻すこと。そのためには事業を見直す必要がある。
衰退期 なるべく早く成熟期に復帰させること。あるいは、事業の構造と目標を素早く大胆に捉え直すことで成長期に直接目指すこともある。
会社の創業者やリーダーなら、特に好むフェーズがあるだろう。もっとも、どのフェーズであれ、すべてを乗り越える準備と習熟が求められる。それぞれのフェーズの要件に適応することは、CEOにとってとりわけ難しい課題なのだ。
このことについて、ジンガの共同創業者であり、Facebookを通じてカジュアルゲームを普及させ、何億人ものプレイヤーを獲得した企業を作ったほか、100社以上に出資してきたジャスティン・ウォルドロンは、洞察に満ちた比喩を語っている。
「海兵隊、陸軍、警察という概念がある。海兵隊はスタートアップにあたり、混沌とした状況の中で場当たり的に解決策を見つける。次に陸軍が出てきて、規模を拡大し領地を確保する。そして最後に警察が秩序維持の役割を果たす。これは成熟期にあたる。重要なのは、海兵隊を志望する人もいれば、陸軍にいたいという人もいるということだ。警察に新しいものを見せても、どう扱っていいかわからないからね」
このたとえ話は、会社がフェーズを移行する際に創業者やCEOが乗り越えなければならない課題をうまく表している。各フェーズに入るたびに、リーダーシップはそのフェーズの特質に適応しなければならない。これは非常に難しいことであり、フェーズ間の移行は、会社を維持する上での根本的な変革を必要とする。
だが、わたしが調査を通じて気づいたのは、成功する会社を築くにはいくつかの前提条件があるということだ。それは、スタートアップ期に踏み出す前に、創業者が必ず整えておくか、少なくとも理解し熟考しておくべきものである。本書の最初のパートでは、その「基盤」について語ることにしよう。それは会社がフェーズを移り、成功を維持するにあたって、当初よりきちんと用意しておくべきものなのだ。
では始めよう。
この続きは本書でお楽しみください
『UP DOWN UP』

「『UP DOWN UP』は、世界トップクラスのゲーム会社がなぜ成功するのかを解き明かす『裏技コマンド(裏コード)』だ」 — ジャスティン・ウォルドロン(Zynga 共同創業者)
ゲーム業界の重鎮キム・ノードストロームが、2年の歳月をかけて業界トップの創業者・CEO・リーダー100名超を直撃! 栄光の舞台裏にある「怒涛の勝利」と「地獄の失敗談」から引き出した、生の学びと生き残り戦略(ノウハウ)とは!?
激動のゲーム業界で、自社を破滅から救い、再び躍進(UP)させるためのバイブルがここに!
書名:UP DOWN UP(仮)
著者:キム・ノードストローム
訳者:矢賀栄樹
監修:イム・チョルファン
仕様: A5/ハードカバー/374ページ
価格:未定
発売日:2026年11月刊行予定
発行元:Jeane Books
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