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【訳者・鈴木あかねインタビュー】映画『オアシス:ドント・ルック・バック・イン・アンガー』が映したオアシスの現在、『What’s the story? オアシス全曲解説』でたどる30年

インタビュー・構成/ジーンブックス編集部

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 2026年9月11日、再結成ツアーの舞台裏と世界各地のファンの姿を追った映画『オアシス:ドント・ルック・バック・イン・アンガー』が、2週間限定で公開されました。これを記念し、2025年10月刊行の『What’s the story? オアシス全曲解説』の訳者・鈴木あかねさんにインタビュー。映画が映し出したギャラガー兄弟の現在、オアシスの曲が世代や国境を越えて歌われる理由、そして本書を通して見えてくる再結成の意味について伺いました。

※本インタビューには、映画本編の内容に関する一部ネタバレが含まれます。あらかじめご了承ください。

◾️30年目に完成したオアシス——リアムの変化と兄弟の現在

——非常にエモーショナルなドキュメンタリーで、私も思わず泣いてしまいました! 鈴木さんはどの場面が特に印象に残りましたか。

鈴木 泣かせシーンばっかりですよね。最初にグッと来たのは再結成ツアー初日のカーディフ公演。リハーサル映像から、ノエルが明らかに緊張しているんですよね。全盛期にリアムがライブ中にいきなりステージを出ていったり、スッポかすのも一回二回ではなかった。再結成が発表されてからも「またケンカしたらどうしよう」と心配する声は本当に多かったです。

 だから、二人が実際にステージへ出てきた瞬間に、「本当に兄弟で同じステージに立ったんだ」とあらためて実感しました。リアムがすっとノエルの手を取り、つないだ手を天に掲げた。オアシス・ファンが何を待っていたのかを瞬時に理解した、天性のショーマンの振る舞いでした。俺たちは戻ってきたぞというメッセージ。めちゃくちゃ感動しました。

——個人的にはリアムの歌声にも驚きました。音源とほとんど変わらないように聴こえて。

鈴木 ですよね。私は8月のロンドン公演、10月の東京ドームと計4回見たんですけど、その2ヶ月の間だけでもリアムの歌もどんどんよくなってました。東京ドーム公演はもう「ザ・リアム・ギャラガー・ショー」みたいな圧倒的な存在感。その横でアニキがニコニコとギターを弾いている。これもオールド・ファンからすると感動ポイントでした。正直、オアシスのライヴは中期以降、リアムがどんどん声を失っていく。「せっかくオアシスのライブに来たのに不完全燃焼だった」という感想を聞いたこともあります。でも今回は煙草も酒もやめ、コンディションと集中力を最高レベルに保って、自分の役割をきちんと果たしている。そこに至る過程を知っていると、もう感慨深いです。

 あとノエルの立ち位置も。ノエルはオアシス解散後、ソロ・アーティストとしてフロントに立たなきゃいけないから、髪も切って、眉毛も整えて、ルックスを底上げして、ロック・スター然としてみせたわけですよね。

——え、あの眉毛、そこまで計算してたんですか。

鈴木 と思います。『What’s the story?』でも出てきますが、ノエル・ギャラガーはバンド論的なことを考え抜いている人ですよね。完璧主義だからソロになったらソロとしての役割をきっちり果たさなきゃいけないと考えた。ソロ時代のインタビューがどれもやたらと笑えるのも、本人が本当に面白いのとは別に、役割として自分の面白さをあえて誇張している部分もあったと思う。

 とにかく、ノエルの設計図では、オアシスとは俺の曲とリアムの歌とアティチュードで成立するはずだった。でも、若さとか兄弟の性格とか、ありがちなバンド力学とか色々重なって、空中分解してしまった。今回リアムがちゃんと歌えるようになって、ようやくオアシスは本来の姿で完成した。ノエルもステージではギタリストと弾き語り担当という定位置に戻れた。これを完成形オアシスと呼ぶのか、第二次オアシス、オアシス Ver.2……呼称は何でもいいですけど、とにかくこのツアーのオアシスは今まで誰も見たことがない、最高レベルのオアシスですよね。初期オアシスの勢いが戻ってきた!イェイ!とかを超えたもの。

 もう一つ泣いたのは、ライブの終盤、リアムが「これは全部お前らのおかげだ」とファンに感謝し、深々と頭を下げるシーン。オアシス時代のリアムは、ステージでも天上天下唯我独尊。つねにケンカ腰だし、声が出ないとふてくされて出ていってしまう。その彼が世界中のファンへ率直に感謝を示す。オールド・ファンだともう親心に近いですよ、「リアム、大人になったんだね」と涙ぐむ、みたいな。

◾️「俺たち、右翼じゃない」——オアシスをめぐる二つの「誤解」

——そもそもの解散のきっかけはギャラガー兄弟の仲違いでしたが、映画では兄弟の確執を示す一方で、なぜ再結成できたのかをほとんど説明しません。

鈴木 そこは非常にうまい作りだと思いました。二人の間に何が起こり、どちらが先に連絡したのか。映画はその経緯をあえて描かず、いつの間にか再結成が決まっていて、観客が歓喜する場面へ進んでいきます。舞台裏には語られていないことがたくさんあるはずですが、そこを説明すると、どうしても生々しい話になる。映画はそれよりも「赦し」と「兄弟愛」を選んだのでしょう。

 マンチェスターの神父が赦しについて語る場面がドラマチックですよね。ギャラガー兄弟は、よくカインとアベルという神話的な兄弟像に重ねられてきました。あの説話は撮影時に偶然出会ったそうですが、二人の兄弟の和解を分断や戦争が絶えなくなった現代世界と重ね合わせる。いま、この荒(すさ)んだ世界で必要なものはオアシスと赦しと和解だ、怒りをこめて振り返るのはやめよう、そういうテーマが浮かび上がってくる。最後に映画タイトルDon’t Look Back in Angerというロゴがドカンと出てきて、あ、これ、オアシスで一番有名な曲だからつけたタイトルではないんだとわかる仕掛け。おっと、そう来たか!と。しかも、その直前のBGMが本書p.243-244に出てくるあの人の「What the World Needs Now Is Love」。

——なるほど、そういうことだったんですね! ライブ映画だと思っていたら、ファンの物語をかなり丁寧に追うドキュメンタリーでしたね。

鈴木 私も最初は、もっと演奏を見せる映画だと思っていました。でも、各国のさまざまな年齢のファンを追い、それぞれがオアシスに何を託しているのかを描いたことで、曲の届き方の広さを際立たせた。

 学習障害の少年が「トーク・トゥナイト」だけはわかって、大切にしていたり、あと韓国の女性ファンが「オアシスの歌は、上から励ますのではなく、同じところまで降りてきて、一緒に立ち上がってくれる。だから好きだ」と話してましたよね。本作の企画担当スティーブン・ナイトは「こんなセリフは脚本家だったらむしろ書けないよ」と感銘を受けたそうです。ひとつの曲からこれほど違う物語が生まれるんですね。

——あと、「俺たち、右翼じゃない」という発言が唐突な気がしたんですが、あれは何か背景があるんですか?

鈴木 オアシスをめぐって二つの「誤解」がありますよね。ひとつは昔の言動。リアムは誰かの悪口を言うときに「オカマ野郎」だの「レズビアン」だのを使いまくっていた。一方のノエルは当時、左派政権だったとはいえ首相官邸に出向いてみたり、グラストンベリー・フェスは「最近、意識高くて、説教くさい」と言ってみたり、まあ反動的なわけです。とくにロックだと、人はありのまま自由に生きよう、人種差別や同性愛差別と闘おう!というのがデフォルトの倫理です。ノエルの親友ポール・ウェラーは今、パレスチナ支持ギグなんかもやっている。こういう中で、何も言わないオアシスは、「ノンポリだけど本音は右派?」みたいにも見える。今回の再結成でも、本国ではこの角度からの批判記事が、ごく少数ですが、出ていました。

 もう一つはファン層。バンドと同じで、ファン層のコアはずっと労働者階級の中高年でした。そうするとサッカーのイングランド代表のサポーター層みたいに、一部にそこそこのナショナリストがいるんですよね。EU離脱に始まって移民排斥を訴える改革党(リフォーム党)のシンパがファンの中にいても私は驚きません。

「右翼じゃない」発言を引き出したのは映画の企画者スティーブン・ナイトです。「二人にとって大事なことだから訊いたし、オアシスにまつわる誤解をここで正しておく必要があった」と考えたそうです。

◾️中学英語の歌詞が、なぜ世界中で「自分の歌」になるのか

——なぜオアシスの曲は、多くの人に自分の歌だと思わせるのでしょうか。

鈴木 曲も歌詞もシンプルだからこそ、聴く人が自分の経験を重ねられる余白が大きいのだと思います。ノエルの歌詞はブリットポップ全盛期のイギリスで、ものすごくからかわれました。よくも悪くも、とにかく語彙が少ない。『What’s the story?』を訳していてもタイトルや歌詞に「away」ばっかり出てくるし。中学英語だから英語圏以外の人の心にもストンと入ってくるところがある。

 一方、ブリットポップの別の巨頭ブラーとパルプは、豊かな語彙力を、もう振り回すみたいにして、社会や人間の機微を鋭く、繊細に描いていた。それに比べれば、オアシスの言葉はシンプル。でも、その素朴さが奇跡的にいい方に転じたんですよね。意味を限定しないから、百人が聴けば百通りの物語になる。映画はその強さをファン一人ひとりの姿で示していたと思います。

——メロディーにも、どこかで聴いたような親しみがあります。

鈴木 ノエルは、過去の音楽からの引用を隠さない。『What’s the story?』でたっぷり記録されているとおり、本人もパクリだと認めるほど、ビートルズや昔のヒット曲をストレートに借りてくる。それが単なる模倣で終わらないのは、彼の編集能力が非常に高いから。頭の中に蓄積された膨大なメロディーを組み合わせ、誰もがすぐ口ずさめる形にして、最後にはオアシスの曲にしてしまう。ノエル本人も言ってますが、ポール・マッカートニーやバカラックみたいにオリジナルなメロディを生み出すタイプとは違う、独特の作曲の才能です。

 歌詞の簡潔さと、どこか既視感のあるメロディー。それを唯一無二のリアムの声が歌うことで、オアシスでしかあり得ない奇跡が生まれてるんですね。

——今年のW杯でイングランド戦勝利の際、サポーターが「ワンダーウォール」を合唱していましたが、映画でも、国も世代も異なる観客が同じ曲を歌っているのが印象的でした。

鈴木 「ジュード・ベリンガムまでワンダーウォールの歌詞を知ってた!」ってノエルも感動してました。オアシスは非常に英国的で、英国人の感情が高ぶったときに自然と歌われる存在です。マンチェスターのテロ事件後には「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」が人々をつなぎ、サッカーのスタンドでは「ワンダーウォール」が自然発生的に歌われる。公式テーマ曲でもないのに、全員が知っていて、一緒に歌えるから。イギリス人の友人が「オアシスは英国の心の歌だ」と言ってもいました。

 だからこそ、さっき話したイギリス人のナショナリズムや愛国心をちょっとくすぐってしまうところがあるんですよね。ただ、今回の映画は英国だけの物語に閉じていません。アジアやアメリカ大陸の各地のファンの解釈をひとつひとつ取り上げた。オアシスは世界中の「we」、俺たち・私たち、みんなのものなんだ、と大合唱してみせた。それがオアシスのメッセージだった。

◾️映画で見た再結成を、『What’s the story?』の30年から読み直す

——映画を見たあとに『What’s the story?』を読むと、本書の訳者としてどんな発見がありましたか。

鈴木 映画は、兄弟の長い確執を短いモンタージュで一気に見せます。だからこそ、本を読むと「この二人が再び一緒にステージに立つことが、どれほどスペシャルな出来事だったのか」がより深く理解できます。本書は楽曲の背景だけでなく、兄弟の関係、ライブやレコーディング中のエピソード、二人の発言が長い時間軸で記録されています。映画の場面と重なるエピソードがより詳細に語られていて、先に読んでも、映画のあとに読んでも、解像度が上がります。

――確かに、『What’s the story?』で触れられたエピソードが随所に散りばめられていると感じました。

鈴木 私が本書を訳した中で忘れられないのは、2016年のリアムのインタビューです。ノエルに向けて、こう呼びかけています。

「ノエル、やろうぜ。みんなが待ってるんだ。たった1年。1年だけツアーをやろうぜ。それで十分だ」

 翻訳しながら、私はこの言葉に泣きました。そして実際に再結成発表、リハーサル、世界ツアーと一年がかりのプロジェクトを敢行してみせた。その後のオアシスについては約束せず、期間限定でツアーに出た。まさに、リアムがずっとノエルにラブコールを送っていた「1年だけ」の旅が実現したんだなと。

 本の冒頭とリアムの言葉には、「航海」というイメージも繰り返し現れます。全世界を巻き込んでのチケット争奪戦を経て会場へ行けた人も、行けずにライブ映画を待っていた人も、このドキュメンタリーで初めてオアシスに触れ、ハマった人も、いま同じ航海に乗り出した。映画が捉えた現在の熱狂と、この本に刻まれた30年を行き来すると、今回の再結成が持つ意味をより一層、立体的に感じられるはずです。

 

訳者プロフィール

鈴木あかね
出版社ロッキング・オンを経て、映画・音楽ライター、翻訳家。海外アーティストや俳優、監督のインタビューを数多く行なっている。著書に『現代ロックの基礎知識』(ロッキング・オン)ほか。訳書『オアシス ザ・マスタープラン』(ジーン・ブックス)など。ドキュメンタリー映画『オアシス:スーパーソニック』の日本語版字幕監修も担当。


『What’s the story? オアシス全曲解説』

 「この本は必読だ。ヘイミッシュとテッドほどバンド、音楽、その影響について知っている人はいない」
――マット ・ ホワイトクロス( 映画 『オアシス : スーパーソニック』監督 )

ギャラガー兄弟を“誰よりも深く知る”音楽ジャーナリスト、テッド・ケスラーとヘイミッシュ・マクベインが全134曲の解説を軸にオアシスの背景とその時代性を鋭く描き出す。バンドやそのマネジメントとも深い関係を築いてきた彼らだからこそ書けた、オアシスの“内側”に迫る決定的ドキュメント。

◾️“ドント・ルック・バック・イン・アンガー”“ワンダーウォール”などの代表曲からB面、隠れた名曲まで――全楽曲の制作背景と文化的影響を徹底解説。
◾️1994~2009年のギャラガー兄弟とのインタビューから、未公開エピソードや舞台裏を多数収録。

私たちにとって、オアシスとは何か?

長年オアシスを取材してきた著者が、楽曲解説を軸にオアシスというバンドの背景と社会的影響力、時代性を鋭く描き出した唯一無二の決定版!

書誌情報
タイトル:What’s the story? オアシス全曲解説
著者名:テッド・ケスラー/ヘイミッシュ・マクベイン
翻訳者名:鈴木あかね
仕様:A5判/ハードカバー/452ページ
価格:定価3,520(本体3,200円+税)
ISBN:978-4-910218-39-7
発売日:2025年10月7日
発行元:ジーンブックス/株式会社ジーン

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