70年代、80年代のロックスターたちとの日々を綴ったエッセイを、編集部が厳選してご紹介!全9回を1話ごとに平日連日配信
英字雑誌Tokyo Journalにて連載された、世界的ロックフォトグラファー、ボブ・グルーエンの大好評ロックエッセイを、同誌編集部のご厚意により日本語バージョンでお届けします。
本連載では、世界中のロックスターたちに愛されたボブ・グルーエンの幅広い交友ぶりにフォーカスを当てました。
今年発売されたばかりの、ボブ・グルーエン初の自伝『ライト・プレイス ライト・タイム あるロック・フォトグラファーの回想』(ジーンブックス)の中でより詳しく語られるエピソードもありますので、本書を片手に読み比べつつ、ロック黄金期の回想ドキュメンタリーをお楽しみください。
<第7回>キッス
KISS Retrospective
キッスと初めて仕事をしたのは1973年、彼らがレコード会社と契約した時でした。このレコード会社からは私もよく依頼を受けていたのです。キッスとの撮影はなかなかめずらしい体験になりました。
それは単に、彼らがメイクをしているからではありません。メイクならニューヨーク・ドールズもしていました。それだけでなく、彼らはメイクをすることで別のアイデンティティを身に着けていました。つまり一種のスーパーヒーローに変身するのであって、そこが他と違っていたのです。
私は彼らがレコード会社と契約を交わすところを撮影したのですが、そこでは相手側のレコード会社の社長までメンバーと同じようなメイクをして登場していました。しかも腕には手錠をはめていて、そこに契約書がぶら下がっていたのです。そんな演出をやってのけるくらいですから、確かに変わったバンドではありました。
彼らの演奏を初めて観たのは、1973年の大晦日の夜のことでした。彼らはイギー・ポップのライブのサポートに起用されていたのです。彼らの出番が終わると、私は楽屋に移動しました。遊びに来た有名人とメンバーが一緒にいるところを撮影したかったのです。ところがバンドのマネージャーに止められてしまいました。なんでも、キッスはメイクなしの姿をけして撮影させない、というのです。
この方針によって、私の仕事は大いにやりにくくなってしまいました。なにしろ、バンドがメイクを済ませてからステージに上がるまでの10分間ほどしか使えないのです。日中に撮影をしようにも、そんな用事のために彼らが昼間からわざわざメイクをしてくれることはまずありません。ところが私との撮影では、それを二度もやってくれたのです。
そのうち一回は、1974年に雑誌の仕事で物語仕立ての撮影をした時でした。スーツとネクタイを身に着けていたメンバーが、電話ボックスを通り抜けるといつものコスチュームに変身するという趣向です。その時の写真をバンドが気に入ってくれて、アルバム『地獄への接吻』のジャケットに使ってくれました。そこでジーン・シモンズが着ているスーツは私のもので、彼にとっては小さすぎたのですが、そのおかげで彼が巨大なモンスターのように見えていました。
キッスは初期の段階から、他のバンドとルックスの良さで競うかわりに、ロック界のモンスターになることを目指していました。ジーン・シモンズはステージで、それこそドラゴンさながらに炎を吐き、血をまき散らしていたのです。
▶︎第8回
『ライト・プレイス ライト・タイム あるロック・フォトグラファーの回想』
世界で最もロックを撮った写真家、ボブ・グルーエン初の自伝。250枚超のロックレジェンドたちの写真を掲載した永久保存版!
ジョン・レノン、ボブ・ディラン、ミック・ジャガー、エルトン・ジョン、セックス・ピストルズ、キッス…伝説的ミュージシャンたちとともに1960年代から半世紀以上を歩んできたロックフォトグラファー、ボブ・グルーエン初の回想録『ライト・プレイス ライト・タイム あるロック・フォトグラファーの回想』が遂に日本上陸。
本書では、被写体となったアーティストとの逸話をはじめ、ロックの黎明期より活動してきた著者ならではのエピソードが満載。1970年代よりたびたび訪れた日本の思い出なども存分に語られます。
カラー多数含む250点超の写真を掲載した永久保存版です。
【書誌情報】
書名:ライト・プレイス ライト・タイム あるロック・フォトグラファーの回想
著者:ボブ・グルーエン/デイヴ・トンプソン
訳者:浅尾敦則
仕様: A5判(210×148mm)/ソフトカバー/500頁
価格:3,850円(本体3,500円)
ISBN:978-4-910218-07-6
発売日:2024年8月
発行元:ジーンブックス/株式会社ジーン
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刊行記念ボブ・グルーエンインタビュー配信中!
クレイジーな時代にロック写真家として生きるために見出した「音楽業界のサバイバル術」——ボブ・グルーエンインタビュー<第1回>
(https://books.jeane.jp/article/interview_bobgruen_1/)
Profile
ボブ・グルーエン(Bob Gruen)1945年ニューヨーク州生まれ。ロック・フォトグラファーの草分けにして第一人者。1970年代初頭にプロの写真家として独立してからは多くのミュージシャンと親しくなり、とりわけニューヨーク移住後のジョン・レノン、オノ・ヨーコとは密接な交流を持った。また英米のパンク、ニューウェーブを当初より記録してきたことでも知られる。日本とのつながりも深く、70年代よりたびたび来日し、一時は東京に居を構えていた。2017年には写真集『ROCK SEEN』(SMASH)が日本でも刊行され、あわせて写真展も開催された。ニューヨーク在住。