70年代、80年代のロックスターたちとの日々を綴ったエッセイを、編集部が厳選してご紹介!全9回を1話ごとに平日連日配信
英字雑誌Tokyo Journalにて連載された、世界的ロックフォトグラファー、ボブ・グルーエンの大好評ロックエッセイを、同誌編集部のご厚意により日本語バージョンでお届けします。
本連載では、世界中のロックスターたちに愛されたボブ・グルーエンの幅広い交友ぶりにフォーカスを当てました。
今年発売されたばかりの、ボブ・グルーエン初の自伝『ライト・プレイス ライト・タイム あるロック・フォトグラファーの回想』(ジーンブックス)の中でより詳しく語られるエピソードもありますので、本書を片手に読み比べつつ、ロック黄金期の回想ドキュメンタリーをお楽しみください。
<第3回>エルトン・ジョン
On Tour with Bob Gruen Elton John Retrospective
1970年のことです。ニューヨークの会場、フィルモアイーストでのレオン・ラッセル公演のオープニングにイギリス人の若手ピアニストが出演することになり、私はその撮影を依頼されました。そのピアニストがエルトン・ジョンでした。
この時、どのように撮影するか思案したのを覚えています。というのも、ピアノ弾きの写真は、なかなか面白いものにならないのです。なにしろピアノ自体ひどく大きな楽器であり、ピアニストはその前にただ座っているのが普通だからです。
ところが、エルトン・ジョンは並みのピアニストではありませんでした。それどころか、彼は私が撮影した中でも有数のエキサイティングなパフォーマーでした。単にピアノの前に座っているだけでなく、周りを飛び跳ねたり、その上に乗ったりするのです。時には両手を鍵盤に置いたまま、身体を反らせたりもしていました。それでいて、演奏は続けているのです! またステージではド派手な衣装やサングラスを身に着けたりもしていました。
それからの数年間、エルトンとは楽しく仕事をすることができました。1971年春には彼と、彼のソングライティングの相棒である作詞家のバーニー・トーピンとの2枚構成の良い写真を撮ることができました。それ以降もカーネギーホールで2回、マジソンスクエアガーデンで1回、それぞれ彼のショーを撮影しています。カーネギーホール公演にはエルトンの母親もお忍びで来ていて、楽屋にも顔を出してエルトンを驚かせていました。
1973年にはエルトンはプライベートジェットで移動するようになっていました。機内には広いラウンジやバー、ピアノのほか、ベッドルームが2室備わっているという豪華なものでした。ある時、ボストンまで移動する際には、ひそかにスティービー・ワンダーが乗り込み、ベッドルームに隠れていました。
飛行機が離陸すると、座席にいたエルトンのところに広報担当が声をかけ、飛行機の中央にあるピアノのところに行くよう頼みました。航空会社が特別に呼んだピアニストがいるので、ぜひ演奏を聴かせたいと言うのです。当初エルトンは抵抗していましたが、結局は折れました。そして彼がラウンジに向かうと、スティービー・ワンダーが「クロコダイル・ロック」を演奏し始めたのです。エルトンは大喜びでした。
1974年、アルバム『心の壁、愛の橋』をレコーディング中のジョン・レノンに会うためレコード・プラント・スタジオを訪問したところ、そこにはエルトン・ジョンも来ていました。ジョンの曲「真夜中を突っ走れ」を一緒になって取りかかっていたのです。
作業がひと段落つくと、エルトンはジョンにこんな頼みごとをしていました。近々マジソンスクエアガーデンでコンサートがあるので、ぜひ出てほしいというのです。気の進まなかったジョンは、この曲がヒットチャートの首位になったら出るよと約束しました。するとこの曲はまさしくヒットチャートの首位になり、約束通りジョンはエルトンのマジソンスクエアガーデン公演に飛び入り参加し、会場はおおいに盛り上がったのです。
▶︎第4回
『ライト・プレイス ライト・タイム あるロック・フォトグラファーの回想』
世界で最もロックを撮った写真家、ボブ・グルーエン初の自伝。250枚超のロックレジェンドたちの写真を掲載した永久保存版!
ジョン・レノン、ボブ・ディラン、ミック・ジャガー、エルトン・ジョン、セックス・ピストルズ、キッス…伝説的ミュージシャンたちとともに1960年代から半世紀以上を歩んできたロックフォトグラファー、ボブ・グルーエン初の回想録『ライト・プレイス ライト・タイム あるロック・フォトグラファーの回想』が遂に日本上陸。
本書では、被写体となったアーティストとの逸話をはじめ、ロックの黎明期より活動してきた著者ならではのエピソードが満載。1970年代よりたびたび訪れた日本の思い出なども存分に語られます。
カラー多数含む250点超の写真を掲載した永久保存版です。
【書誌情報】
書名:ライト・プレイス ライト・タイム あるロック・フォトグラファーの回想
著者:ボブ・グルーエン/デイヴ・トンプソン
訳者:浅尾敦則
仕様: A5判(210×148mm)/ソフトカバー/500頁
価格:3,850円(本体3,500円)
ISBN:978-4-910218-07-6
発売日:2024年8月
発行元:ジーンブックス/株式会社ジーン
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刊行記念ボブ・グルーエンインタビュー配信中!
クレイジーな時代にロック写真家として生きるために見出した「音楽業界のサバイバル術」——ボブ・グルーエンインタビュー<第1回>
(https://books.jeane.jp/article/interview_bobgruen_1/)

Profile
ボブ・グルーエン(Bob Gruen)1945年ニューヨーク州生まれ。ロック・フォトグラファーの草分けにして第一人者。1970年代初頭にプロの写真家として独立してからは多くのミュージシャンと親しくなり、とりわけニューヨーク移住後のジョン・レノン、オノ・ヨーコとは密接な交流を持った。また英米のパンク、ニューウェーブを当初より記録してきたことでも知られる。日本とのつながりも深く、70年代よりたびたび来日し、一時は東京に居を構えていた。2017年には写真集『ROCK SEEN』(SMASH)が日本でも刊行され、あわせて写真展も開催された。ニューヨーク在住。